インピンジメント症候群このページを印刷する - インピンジメント症候群


疾患に関するQ & A

・インピンジメント症候群とは何ですか?
・インピンジメント症候群はどれくらいの人が、かかる病気なのでしょうか?
・インピンジメント症候群の原因は何ですか?
・インピンジメント症候群はどんな症状がでますか?
・インピンジメント症候群はどうやって診断するのですか?
 

治療、手術に関するQ & A

・インピンジメント症候群の治療はどのようなものがありますか?
・インピンジメント症候群の手術はどのような方法でやるのですか?
  インピンジメント症候群の手術に関する麻酔、入院期間、リハビリ、痛み、術後の注意点、費用について:インピンジメント症候群の手術は腱板の処置を伴う可能性があるため、これらの項目は腱板断裂とほぼ同様となります。腱板断裂手術の説明ページをご覧ください。
→腱板断裂手術へ
 

インピンジメント症候群とは何ですか?

インピンジメント症候群は、腱板断裂などのはっきりとした損傷を伴わずに肩の痛みを起こす疾患の一つで、肩のこすれや挟まりこみなどが原因になると考えられています。症状や検査、骨の形態などいくつかの所見を組み合わせることで診断することができます。

英語でimpingement syndromeと名付けられた疾患ですが、impingementというのは「突き当たる」「衝突する」などと訳されます。肩の関節近くで、骨同士や軟骨、靱帯の衝突やこすれが起きることで痛みを感じる疾患と考えられています。

診断につながる決定的な所見がないため、複数の所見を組み合わせて考える必要があり、また肩の痛みを出す他の疾患を否定することが重要となります。
 

インピンジメント症候群はどれくらいの人が、かかる病気なのでしょうか?

肩の痛みを感じる人は腰痛に次いで多いと言われており、そのうちインピンジメント症候群は30-35%を占めるとする研究結果があります。J Hand Ther. 2004; 17(2): 152.
ただし、インピンジメント症候群自体の定義に違いがあるため、実際の数値には幅があるものと思われます。


肩の痛みは一般的によく見られる症状であり、インピンジメント症候群はその原因として最も一般的なものである可能性があります。ただし、詳細な診察や検査を行わずに他の疾患をインピンジメント症候群としてしまう可能性を含んでおり、実際の割合は不明と言わざるをえません。

仕事やスポーツ(水泳、野球、テニス、ゴルフなど)で腕を上げる動作を頻繁に行う方や、肩が柔らかい方(不安定性がある方)、肩峰という骨の形が出っ張った特徴を持っている方に発症する可能性が高いとされています。
 

インピンジメント症候群の原因は何ですか?

肩の関節近くでは、骨同士の隙間が狭く、こすれが起きやすい構造になっています。年齢や疲労、姿勢の影響で動きの連携がとれずに衝突するようになると、炎症や出血を起こしてインピンジメント症候群の原因となります。こすれが起きやすいような骨の形が原因の一つになるとも言われています。

肩の関節は、元々骨と骨が非常に近い距離で動く構造となっています。

通常であれば、腕を上げる時には周りの筋肉がタイミングよく働き連携するため、うまくこすれずに動くことができますが、筋肉の疲れや不良姿勢などが原因でバランスが崩れると、インピンジメントを起こしやすくなります。


小結節と烏口突起の間で起こることもありますが、最もインピンジメントを起こしやすいのは、上腕骨の大結節と肩峰の間です。そのため肩峰の骨形態に注目し、そこに原因があるとする考え方があります。


type3のフックタイプではこすれが起きやすいと思われ、実際に発症率が高かったとする報告もあります。
Clin Sports Med. 2003; 22(4): 791.

ただし、フックタイプであれば全員がインピンジメント症候群というわけではなく、あくまで診断の手がかりの一つであるという位置づけとなります。
 

インピンジメント症候群はどんな症状がでますか?

インピンジメント症候群では、肩を上げた時に痛みを感じます。最後まで上げた時よりも、むしろ上げる途中や、ある特定の角度で痛みを感じます。痛みは肩そのものからやや外側に出ることがあり、時に二の腕まで痛みを感じることがあります。しばしば夜寝ている時や、仰向けになった時に痛みが強くなります。

インピンジメント症候群では腱板付着部で炎症が起こるため、腱板断裂と似た症状を感じます。肩の可動域(動く範囲)が制限されることは少なく、動くけど痛い(痛みのせいで動かしづらい、ということはあります)という状況になります。夜間に痛みが強くなるのは、炎症が強い時に特徴的な症状です。

インピンジメント症候群では、次のような体勢になった時に痛みを感じます。

ただし、インピンジメント症候群特有というわけではなく、他の疾患でも同じように痛みを感じることがあります。

その他、手を腰に回す(エプロンのひもを結ぶ動作)、手を反対側の肩の方へ動かす(脇の下や肩の後ろを洗う)といった動作で肩の前方に痛みが出やすくなります。
 

インピンジメント症候群はどうやって診断するのですか?

インピンジメント症候群は決め手となる画像所見がないため、臨床症状を詳細に診察することと、必要な画像検査を行って他の疾患を否定することが必要になります。インピンジメント症候群と似た症状を起こす頻度の高い疾患は、腱板断裂、五十肩、石灰沈着性腱板炎があります。

インピンジメント症候群の症状は腱板断裂と似ていますが、腱板断裂では筋力低下を起こすのに対して、インピンジメント症候群では筋力は通常保たれています(痛みで脱力してしまう場合はあります)。MRI検査を行うことで、両者の鑑別はほぼ確実なものとなります。
腱板断裂とは何ですか?

五十肩(肩関節周囲炎)では、肩の動きそのものが制限されるため、自分の力で動きづらいだけではなく、人に手を動かしてもらっても肩は十分に動きません。インピンジメント症候群では、通常人に手を持ってもらえば痛みはある程度でるものの、肩の動きは保たれています。画像検査は両者とも正常であることが多いため、検査で鑑別することは難しいのです。
五十肩とは何ですか?

石灰沈着性腱板炎(慢性期の症状)は、インピンジメントが原因となることもあるため、両者の症状は似ています。レントゲンを撮影し石灰の存在が明らかとなれば診断がつきますが、実際症状を出しているのはインピンジメント現象である可能性があります。
石灰沈着性腱板炎とは何ですか?
 

インピンジメント症候群の治療はどのようなものがありますか?

インピンジメント症候群にはまず飲み薬や注射、リハビリテーションを組み合わせた保存治療が行われます。多くは保存治療で症状が軽快しますが、十分な効果が得られない場合には、骨のこすれを解消するための手術を行うことがあります。

インピンジメント症候群ははっきりとした損傷を伴う疾患ではなく、筋肉の連携など機能的な異常が主な原因です。そのため痛みをコントロールし、リハビリテーションによる機能改善で症状の軽快を期待することができます。大規模な研究においても、リハビリテーションが最も効果的な治療であることが明らかとなっています。Medicine 2015; 94(10): e510.

投球など頭上の動きを伴うスポーツをしている場合、2-4週のスポーツ中止により痛みをコントロールします。早期にリハビリテーションを開始し、肩の動きが制限されているようであれば可動域を広げる訓練を行い、肩甲骨の動きがスムーズになるように機能訓練を実施します。肩の骨と骨の隙間が実際に広がるわけではありませんが、腕と肩甲骨が連動して動くことで、こすれや衝突が起きづらくなるのです。

それでも良くならない場合には、骨と骨の隙間を広げるための手術を行います。炎症の原因となる滑膜を切除し、突出している骨を削ります。内視鏡(関節鏡)で観察しながら行われることが大多数となっています。
 

インピンジメント症候群の手術はどのような方法でやるのですか?

インピンジメント症候群の手術では、骨と靱帯、骨同士のこすれを解消するために靱帯を切離し、骨を削る処置を行います。内視鏡(関節鏡)で内部を確認しながら、実際にこすれや衝突の原因となる部分を特定し処置を行います。障害になっている部分のみを処置するため、靱帯の切離や骨の切除がその後に問題となることは通常ありません。