腱板断裂(けんばんだんれつ)このページを印刷する - 腱板断裂(けんばんだんれつ)


疾患に関するQ & A

・腱板断裂とは何ですか?
・腱板断裂と五十肩の違いを教えて下さい。
・腱板断裂はどれくらいの人が、かかる病気なのでしょうか?
・腱板断裂の原因は何ですか?
・腱板断裂はどんな症状がでますか?
・腱板断裂はどうやって診断するのですか?
 

治療に関するQ & A

・腱板断裂の治療はどのようなものがありますか?
・腱板断裂は手術をしないでも治りますか?
・腱板断裂の治療をせずに放置した場合、どうなりますか?
 

手術に関するQ & A

・腱板断裂の手術はどのような方法でやるのですか?
・腱板断裂の手術をすると、どれくらい良くなりますか?
・腱板断裂の手術は内視鏡でできると聞いたのですが、できますか?
・腱板断裂の手術は、どのような麻酔で行うのでしょうか?
・腱板断裂の手術をする場合、入院期間はどれくらいになりますか?
・腱板断裂の手術をした後の、リハビリについて教えてください。
・腱板断裂の手術をした後の、痛みについて教えてください。
・腱板断裂の手術をした後の、注意点にはどのようなものがありますか?
・腱板断裂の手術を受ける場合、費用はどれくらいかかりますか?
・腱板断裂は手術をしないと治りませんか?
・腱板断裂の手術は何歳まで受けることができますか?
 

腱板断裂とは何ですか?

肩を支える筋肉(インナーマッスル)が腕の骨からはがれてしまうことです。加齢や使い過ぎ、けがが原因となります。五十肩とは異なる病気で、特徴的な経過や症状、レントゲンやMRIから診断されます。病状により手術が行われることがあります。


これはインナーマッスルです。インナーマッスルは真ん中あたりは赤くて柔らかい筋肉ですが、骨につくところで固い腱に変わります。その腱が幅広く板のように広がって腕の骨に付くため、腱板という名前がついています。

インナーマッスルには4つの筋肉があります。構造上、腕の骨の上部分(大結節)に付く、棘上筋と言う筋肉が最も断裂を起こしやすくなっています。

腱板断裂のことを、「すじ」を痛めた、という言い方をすることがあります。整形外科を受診した時に、「すじが1本か2本切れているねー」などと言われることがあるかもしれません。それはこのインナーマッスル4つのうち、どれくらいの範囲で腱板が断裂しているかということを表す表現です。
 

腱板断裂と五十肩の違いを教えて下さい。

腱板断裂と五十肩はどちらも肩が痛く、動きが悪くなる病気です。腱板断裂では「痛いが何とか腕が上がる」、五十肩では「痛いしどうやっても腕が上がらない」ことが多いという違いがあります。 

腱板断裂は、インナーマッスルが腕の骨からはがれてしまう病気です。インナーマッスルの力が伝わらなくなり痛みの原因となりますが、表層にあるアウターマッスルの力で腕を上げることができます。

対して五十肩は、肩の関節そのものが硬くなってしまう病気です。いくらインナーマッスルやアウターマッスルの力が強くても、腕を上げることができません。逆側の動く手で補助しても、セラピスト(理学療法士、作業療法士)に補助してもらっても、腕は上がりません。

腱板断裂では腱の自然修復が期待できないために手術で治療されることがあるのに対して、五十肩では期間は要するものの自然に回復することが期待できるため保存的に治療されやすいという点も大きな違いです。

ただし腱板断裂でも関節の硬さを伴う場合がある、腱板断裂でも保存的に治療され軽快する場合がある、五十肩でも治療期間を短縮するための手術を行うことがある、など例外的な状況が起こることも少なくありません。

両者の鑑別は必ずしも簡単ではなく、治療に対する反応を継続的に診ていく、MRIなどの精密検査を行うといった対応が必要です。
 

腱板断裂はどれくらいの人が、かかる病気なのでしょうか?

40歳代以降の方が肩を痛める疾患として、腱板断裂はありふれたものです。国内のある村で住民の方約700人の肩を超音波で調べたところ、50歳代で12.8%、60歳代で25.6%、70歳代で45.8%の確率で腱板断裂が発見されました。
(J Shoulder Elbow Surg. 2010; 19(1): 116-20.)


患者さんの数が多いため、手術を行われる件数が増加しており、日本では年間12000件以上の腱板断裂手術が行われています。
(2017年度・肩の手術アンケート調査 日本肩関節学会)
 

腱板断裂の原因は何ですか?

加齢や使い過ぎ、こすれなどが原因で弱った腱板に、けがなど何らかのきっかけが起きて断裂します。きっかけはわずかな事であることも多く、気付かない間に断裂している場合もあります。糖尿病や喫煙、高脂血症が原因となることもあります。利き腕であること、重労働を行うこと、激しいスポーツはリスクとなります。

腱板が弱くなる原因として、段々と腱板の性質が自ら変化するという内因説、骨とのこすれなど外的な要因による外因説、の2つが古くから考えられてきました。

内因説は、体全体の健康状態などにより、腱板自らが弱くなるとする説です。
主に、次の原因が考えられています。
  • 年齢
  • 糖尿病
  • 高脂血症
  • 関節リウマチ
  • 喫煙
加齢によって腱が老化することや、病気・喫煙によって腱の中の細い血管が障害されることなどが、腱板が弱くなる原因と考えられています。
 
外因説は、使いすぎやこすれなど、外からの要因により腱が損傷し、断裂するという考え方です。



腱板は図のように、骨に挟まれた狭い空間を通っています。健康な状態では、滑液包の働きで腱板は守られています。しかし使いすぎなどが原因で、骨とのこすれが強くなると、腕を上げ下げするたびに少しずつ傷んでしまいます。
また、腱板断裂が利き腕に起こることが多いこと、力仕事や重労働をする方に多いことから、使いすぎが原因になると考えられています。
 

腱板断裂はどんな症状がでますか?

腱板断裂の症状は、主に痛みです。
  • 腕は上がるが、上げ下げの途中が痛い
  • 昼は平気だが、夜になると寝ていても痛くなる
  • 肩だけでなく腕まで痛いことがある
  • 進行すると全く腕が上がらなくなる
などの特徴があります。

腱板は、インナーマッスルが腕の骨の近くで固い腱となったものです。インナーマッスルの表層には、三角筋や大胸筋という、アウターマッスルがあります。そのため、腱板断裂を起こしてもアウターマッスルの働きで、腕を上げることができます。


ただし、上げる途中で断裂した腱板が周囲の骨にひっかかりを起こしたり、こすれを起こしたりすることで痛みが発生します。目の前くらいの高さに腕を伸ばす時に痛むため、着替えや洗濯物を干す、駐車券のために腕を伸ばすなどの動きがつらくなります。

腱板断裂が進行し、骨からはがれる範囲が広くなると、腕の抑えがきかなくなり、全く上がらなくなってしまうことがあります。まるで脳梗塞などで麻痺した腕のようになるので、この状態を偽性麻痺と呼びます。

日中はそれほど痛くなくても、夜になるとズキズキ痛むというのも腱板断裂の症状の特徴です。夜になると肩周りの血流が増加する、横になると腕にかかる重力がなくなるため肩に圧迫力がかかる、夜は神経が敏感になり痛みを感じやすい、などがその理由として考えられています。

腱板断裂の患者さんは肩の痛みが主ですが、しばしば肩の前のほうや、二の腕あたりに痛みを感じることがあります。はっきりとした理由は不明ですが、肩の感覚を感じる神経と、二の腕の感覚を感じる神経の出どころが、似たところにあることが原因という説があります。
(肩関節 2010; 34(3): 569-73)
実際痛いと感じる場所が、腱板そのものと離れた場所にあるため、本当に腱板断裂なのかな?と疑問に思いやすいのが特徴的です。
 
ただし症状には個人差があり、これらの特徴が全てあてはまる場合もあれば、一つもあてはまらない場合もあります。自己判断は診断の遅れにつながりますので、注意が必要です。

また、腱板断裂を起こした後に長期間が経過していると、それほど強い症状をださずにおさまっている場合もあります。日頃肩への負担をそれほどかけないような生活を送っている方(力仕事の少ない高齢の女性など)は、腱板の一部が断裂しても、周囲の筋肉の働きなどで機能をカバーできるからです。そのような場合でも、肩の打撲や家事作業などちょっとしたきっかけで断裂が拡大すると、症状が悪化する可能性が高くなります。
 

腱板断裂はどうやって診断するのですか?

腱板断裂の診断は、問診、身体所見、画像検査から行います。問診では痛みが急に強くなったか、きっかけがあったか、夜間痛があるか、身体所見では肩の筋力低下がないか、画像検査は超音波とMRIの所見がポイントとなります。

腱板断裂には、大きく分けて慢性のものと、急性のものがあります。慢性のものは、数年かけて徐々に腱板の損傷が進み、場合によっては知らないうちに断裂してしまっているものをいいます。急性のものは、肩をぶつけるなどはっきりしたきっかけがあることが多く、きっかけがなくとも、ある時期から急に痛くなるものをいいます。慢性と急性で治療方針が異なるため、問診は重要な診察です。

身体所見では、腕を上げようとする筋力(主に棘上筋)、腕を外に回そうとする筋力(主に棘下筋)、腕を内側に回そうとする筋力(主に肩甲下筋)を診察します。



五十肩では基本的に筋力が低下することはありません。腱板断裂と区別する上で、重要な診察です。

画像検査は、レントゲンや超音波、MRI検査を行います。進行した腱板断裂ではレントゲンでも変化がでますが、初期のものは超音波やMRIで腱板を直接観察することで診断します。


腱板が完全にはがれてしまっているものを完全断裂、はがれかかっているものを部分断裂と呼びます。これもMRIで判別することができます。


腱板断裂を発症してから長期間が経つと、インナーマッスルがやせて、脂肪に置き換わります。MRIで筋肉の様子を観察することで、慢性と急性の区別をすることが可能です。
 

腱板断裂の治療はどのようなものがありますか?

腱板断裂の治療は、病状により保存治療と手術に分かれます。保存治療では理学療法(リハビリ)やステロイド注射、手術では腱板をつなぐ手術か、上方関節包再建術、またはリバース型人工肩関節という手術が行われます。

(手術の具体的な方法についてはこちらへ)
腱板断裂の手術はどのような方法でやるのですか?

施設や担当医によって方針に若干の違いはありますが、腱板断裂の方に手術をするかどうかは、次のようなアルゴリズムが標準的となっています。

慢性と考えられるものは保存治療が優先され、急性や、慢性の急性悪化と考えられるものは主に手術が優先されます。特に、急性の完全断裂は早期の手術が勧められます。 ただし、これはあくまで原則であり、患者さんの年齢や健康状態、生活環境などにより治療方針がそれぞれ決定されますので、主治医とよく相談することが重要です。
 

腱板断裂は手術をしないでも治りますか?

損傷した腱板が、自然に修復されることはありません。逆に、筋肉に引っ張られて断裂が拡大する可能性があります。ただし、腱板が断裂していても、肩に負担をかけない生活をすることで、症状を抑えて生活できることがあります。

慢性の腱板断裂や、腱板の部分断裂では保存治療が優先されます。保存治療の内容は、主には理学療法(リハビリ)とステロイド注射です。

理学療法では、概ね3つの段階を経て治療を行います。
ー肩の動きを広げる治療、動かす練習
ー肩の力を鍛える、断裂した腱板の機能を補う訓練
ー実際の生活と同じように肩を使用していく練習

ステロイド注射は、痛みを抑えるのに有効です。ただし、その効果は一時的です。繰り返しの注射は、腱板の質を低下させてしまうため、勧められません。文献的には、4回以上のステロイド注射は有害となる可能性が指摘されています。
(J Bone Joint Surg Am. 2006; 88(6): 1331)

  保存治療がどれくらいの人に有効であるかは、はっきりしたデータはありません。9割の人に有効だったと報告している研究もあれば、3割の人にしか効果がなかった、としている報告もあります。60歳以下の、部分断裂の方で効果がでやすかった、という研究もあります。
(J Bone Joint Surg Am. 2009; 91(8): 1898)

  保存治療が有効で、症状が抑えられた状態は「治癒」ではなく、「小康状態」と捉えた方が正確です。断裂が拡大し、また症状が悪化する可能性があるからです。腱板断裂が小康状態となった50人の人を3年間経過を追ったところ、18人の方で症状が悪化した、というデータがあります。
(J Bone Joint Surg Am. 2013; 95: 1249-55)
そのため症状が落ち着いた方も、定期的に受診して経過を追うことが勧められています。
 

腱板断裂の治療をせずに放置した場合、どうなりますか?

腱板断裂の治療をせずに放置すると、インナーマッスルがやせて脂肪に置き換わります。断裂が拡大し、症状が悪化する可能性があります。急性の断裂は特にリスクが高くなります。慢性であれば放置しても問題ないことがあります。
 
腱板が断裂すると、筋肉の片側が宙に浮いた状態になるため、筋肉が使われなくなります。宇宙飛行士の筋肉が弱ってしまうのと同じように、インナーマッスルが使われなくなると、筋肉がやせて脂肪に置き換わってしまいます。

脂肪に置き換わってしまうと、その後回復することのない不可逆的な変化となってしまいます。筋肉が脂肪に置き換わった状態では、腱板をつなぐことが難しくなる可能性があります。

急性の断裂では、手術までの時間が遅れると治療成績が落ちることが知られているため、早期の治療が勧められます。
(Rev Chir Orthop Reparatrice Appar Mot. 1999; 85(7): 668)

どれくらい早ければ大丈夫、というデータはありませんが、3週以内に手術を行った方では結果が非常に良かったという報告があります。
(J Shoulder Elbow Surg. 2007; 15(2): 148)

一方慢性の断裂では、その状態で何年も問題なく生活している方がいらっしゃいます。断裂していても生活に必要なだけの肩の機能を果たせている状態ということになりますので、そのような場合は放置しても大きな問題にならないことがあります。
ただし、断裂の拡大に伴って急に症状が悪化することがありますので、継続的に医療機関を受診することが必要となります。
 

腱板断裂の手術はどのような方法でやるのですか?

腱板断裂の手術は、関節鏡を使用する腱板断裂手術・上方関節包再建術、皮膚の切開が必要なリバース型人工肩関節置換術のいずれかを行います。腱板をつなぐことができる状態の方には腱板断裂手術、進行した方に上方関節包再建術、リバース型人工肩関節置換術が行われます。

  腱板断裂は、骨からはがれている範囲が大きくないものや、受傷してすぐの状態であれば、つなぐことができます。腱板をつなぐ腱板断裂手術は、主に関節鏡を使用して行われます。直径4mmのカメラを肩の関節に入れて、内部を観察しながら処置を行います。

腱板を骨につなぐには、以前は骨に穴をあけて糸で固定する方法が主流でしたが、現在ではスーチャーアンカーを使用する方法が広まっています。骨に固定されたスーチャーアンカーには糸が通されており、その糸を使用して腱板を骨に圧着します。

    スーチャーアンカー

圧着された状態で時間をおくと、徐々に腱板と骨が癒合していきます。

断裂の範囲が大きいもの、時間が経ち筋肉がやせてしまったものでは、引き込んだ腱板を外まで引っ張ることができないため、つなぐことができません。このような場合には、別の場所から持ってきた何らかの材料で肩甲骨と上腕骨をつなぎ、肩を安定させる手術が行われます。これを、上方関節包再建術といいます。

腱板断裂手術と同じく関節鏡を使用して手術が行われます。処置の手順が増えるため、手術の時間はやや長くなり、皮膚につく傷もやや大きくなる傾向があります。日本で開発された新しい術式で、この10年ほどで世界中に広まってきています。

手術に使われる材料は、国内では自分の大腿筋膜(太ももの外側にある筋肉の膜)を使用する方法が一般的です。海外ではアログラフト(他人の皮膚)が広く使用されています。
近年、人工の腱を使用する方法が報告されています。
(J Shoulder Elbow Surg. 2021 Mar; 30(3), Arthrosc Tech. 2020 Apr3; 9(4))

腱板が断裂した状態で長期間経過すると、関節の変形が徐々に進行します。関節自体の変形が強くなると、上方関節包再建術でも対応しきれなくなります。この場合には、リバース型人工肩関節置換術が行われます。

本来肩関節は、上腕骨側が丸い頭で、肩甲骨側が受け皿の形になっていますが、この手術では逆に肩甲骨側に丸い頭を設置します。頭と受け皿の関係が逆になるので、リバース型という名前がついています。上腕骨側には受け皿が設置され、腕は少し引き伸ばされた状態で固定されます。

すると、腱板がなくても人工関節や周りの筋肉の働きで関節が安定することに加えて、アウターマッスルの筋力が効きやすくなるため、腕を楽にあげることができるようになります。

フランスを中心に海外では以前から行われている手術ですが、日本では2014年から実施可能となった新しい術式です。肩関節の手術経験が豊富で、一定の基準をクリアした専門医だけが行うことのできる手術となっています。

手術方法の選択は、担当医の考えや施設によって異なる場合があります。主治医とよく相談し、納得して手術を受けることが重要です。
 

腱板断裂の手術をすると、どれくらい良くなりますか?

腱板断裂手術をすると、短期的(術後2年まで)に痛みや可動域が改善することが多くの研究で報告されています。さらに術後10年まで経過を追った研究では、保存治療を行ったグループと比較して良い結果であったことが報告されています。 (J Bone Joint Surg Am. 2019; 101(12): 1050.)

上方関節包再建術やリバース型人工肩関節でも、同様に良い結果が多数報告されています。

ただし医療全般に言えることですが、治療を受けることによってどれだけの効果が得られるかは、患者さんそれぞれの状況により異なります。 研究の報告や主治医の説明を参考にして、自分にベストと思える治療を選択していくことが重要です。
 

腱板断裂の手術は内視鏡でできると聞いたのですが、できますか?

腱板断裂の手術は、主に関節鏡を使用して行われます。関節鏡は直径4mmのカメラで、皮膚を1cm程度切開したところから挿入します。筋肉を大きく分ける必要がないため、関節周りの組織へのダメージが少ないという利点があります。

一般的に内視鏡と聞いてイメージするのは胃カメラや大腸カメラではないでしょうか。消化管に使用される内視鏡は軟性鏡と呼ばれ、消化管の中をクネクネと進んでいくため、内視鏡自体を曲げたり方向を調整したりすることができます。関節鏡は硬性鏡と呼ばれ、内視鏡自体が曲がることはありません。

また消化管内視鏡は口やお尻から挿入するため、体の表面に傷がつくことがありませんが、関節鏡では皮膚を1cm程度切開する必要があります。

リバース型人工肩関節手術は、関節鏡で行うことはできません。 腱板断裂手術、上方関節包再建術は、全体の約9割が関節鏡で行われています。 (2017年度・肩の手術アンケート調査 日本肩関節学会)
 

腱板断裂の手術は、どのような麻酔で行うのでしょうか?

腱板断裂の手術は、全身麻酔のみ、局所麻酔(神経ブロック)のみ、全身麻酔+局所麻酔(神経ブロック)のいずれかで行われることが一般的です。麻酔科医師により行われる場合もあれば、整形外科医が自分で行うこともあります。

神経ブロックというのは、痛みを感じる神経の近くに局所麻酔薬を注入することで、痛みを感じなくするようにする方法です。腱板断裂の手術を行う時には、斜角筋間ブロックという方法で行われます。

図のように超音波で位置を確認しながら行う方法、レントゲンの器械での骨の位置を確認しながら行う方法、体表から筋肉を触れて注射する方法などがあります。使う薬剤にもよりますが、8-12時間程度痛みを感じなくすることができます。
 

腱板断裂の手術をする場合、入院期間はどれくらいになりますか?

腱板断裂の手術を全身麻酔で行う場合、最低でも1泊の入院が必要となります。神経ブロックのみで腱板断裂の手術を行う施設では、日帰り手術を行っていることがあります。リハビリを入院で行う場合、上方関節包再建術やリバース型人工肩関節を行う場合は、概ね2-4週間程度の入院治療を行います。

腱板断裂の手術のうち、関節鏡で行う腱板断裂手術は体への負担が少なく、出血もわずかであるため遅くとも手術翌日には歩行可能となることが一般的です。歩行することができれば退院可能ですが、術後の痛みの影響を見るためや、リハビリを目的に入院治療を継続することがあります。

腱板断裂の範囲が大きい患者さんでは、術後の再断裂を予防するため、管理を徹底することを目的に入院期間を長くする場合などもあります。入院期間は、患者さんそれぞれの状況や、施設の方針によって異なるため、治療を受ける施設や主治医と相談する必要があります。
 
上方関節包再建術では、太ももにも傷がつくために、歩行時に痛みがでることがあります。リバース型人工肩関節では、皮膚を大きく切開し、出血も多くなります。そのため、これらの術式を行う場合には一定期間(2-4週間程度)の入院治療が必要となります。
 

腱板断裂の手術をした後の、リハビリについて教えてください。

腱板断裂の術後早期には、修復した部分を保護するための外転装具を使用します。手術部位に負担がかからない動作訓練や筋力維持を行い、徐々に可動域を広げるためのリハビリを強化していきます。病状や経過によりますが、通常4-6ヶ月程度のリハビリが必要です。

こちらが術後早期に装着する装具の例です。脇を広げることで、修復した部分に負担がかからないようにする仕組みです。多くは既製品ですが、バンドの長さ等を調整することで、患者さんにフィットするよう調節します。

手術直後は患部を安静に保ちながらも、肘や手、指などは積極的に動かして血流を促すようにします。安静にしすぎるのも逆効果となることがあるからです。 痛みの具合をみながら、少しずつ肩を動かす練習を始めていきます。動かし始める時期は施設の方針により様々ですが、はじめは他動訓練といって、自分では力をいれずにセラピスト(理学療法士、作業療法士)に腕を預けて動かす練習を行います。自分で力を入れてしまうと、修復した部分を引っ張る力がかかり、治癒を遅らせてしまう可能性があるためです。

術後一定の時期がすぎると、自分で力を入れて腕を動かす練習が始まります。装具を外し、日常生活で腕を使えるようになります。このタイミングも施設により様々ですが、一般的には術後4-6週程度が目安になります。

例として、当院のリハビリプログラムを掲載します。

装具を外した後は、安静期間に低下した筋力の強化を行い、日常生活動作やスポーツ動作に即した動きの練習を行っていきます。
軽い仕事やスポーツには2-4ヶ月程度、重労働は6-8ヶ月以降に復帰を許可することが一般的となっています。

上方関節包再建術や、リバース型人工肩関節置換術の術後リハビリについては、どちらも比較的新しい手術ということもあり、施設間でプログラムに差がある状況です。 ご自身が治療を受けられる施設でのリハビリプログラムを確認するようにしてください。
 

腱板断裂の手術をした後の、痛みについて教えてください。

腱板断裂の手術は、表面の傷は小さいですが、内部では複雑な処置を行うためある程度の痛みがでます。痛みを抑えるには神経ブロックが効果的で、持続的に薬を注入するためのカテーテルを留置することがあります。飲み薬や点滴でも痛み止めを使用し、痛みが強くならないよう工夫されています。  

術後の痛みが強いと、肩まわりの筋肉が硬直してしまい、リハビリをうまく進めることができません。セラピスト(理学療法士、作業療法士)の手で筋肉をほぐし、血流を促進する処置が行われます。

リハビリの段階が進む時には、痛みを感じることがありますが、それは特別なことではありません。腱板をつなぐためには安静が必要ですが、安静すると肩の関節は硬くなり、筋力は弱くなっています。柔軟性や筋力を取り戻す過程では、どうしても痛みが出るのです。
 

腱板断裂の手術をした後の、注意点にはどのようなものがありますか?

腱板断裂の手術をした後は、再断裂の発生に気をつける必要があります。術後早期は腱板をつないだ場所がまだ弱いため、強い力をかけてしまうとまた断裂してしまう可能性があります。リハビリプログラムを守り、無理しないことが重要な注意点です。

腱板断裂の手術後には、一定の確率で再断裂が発生します。これまでの多くの論文をまとめた研究結果から、再断裂率は断裂の大きさによって異なることが分かっています。

断裂の大きさは4段階に分けられます。
ー広範囲断裂:断裂の前後径が5cm以上
ー大断裂:3-5cm
ー中断裂:1-3cm
ー小、部分断裂:1cm以下

再断裂率は広範囲断裂で39.3%、大断裂で27.7%、中断裂で10.1%、小・部分断裂で3.7%となっています。(整形外科最小侵襲ジャーナル. 2020; 97: 2-8)再断裂すると治療成績が劣ることが分かっており、術後のプログラムを守り無理をかけないことが重要な注意点です。

そのほか、重要な合併症に「感染」があります。手術の傷から細菌が体内に入ってしまい、膿んでしまうことをいいます。治療が遅れると病状が進み、最悪の場合再手術ということになりますので、傷が赤い、しみ出しがあるなどの症状がある場合は、できるだけ早く手術を受けた医療機関を受診するようにしてください。
 

腱板断裂の手術を受ける場合、費用はどれくらいかかりますか?

腱板断裂の手術を受けて、1週間程度の入院をした場合の医療費は、概ね60-90万円程度です。
(状況により異なるので、あくまで目安とお考えください)
 

高額の医療費となるため、「高額療養費制度」を利用することができます。高額療養費制度は、医療費が上限額を超えた際に、家計の負担を軽くするための制度です。年齢や収入により自己負担額が決まっています。 例えば、70歳未満で年収が370-770万円の人は、自己負担額が「8万100円+(医療費-26万7千円)×1%」と決められているため、医療費80万円の場合1か月の自己負担額は85430円となります。
(月をまたいだ入院の場合、それぞれの月で自己負担額が計算されます)

そのほか、腱板断裂の術後に装着する装具の費用がかかります。費用は3-6万円程度と高価なものですが、保険がきくため後で申請することで、自己負担分以外の金額は戻ってくることになります。
 

腱板断裂は手術をしないと治りませんか?

腱板が断裂した場所は、自然に修復されることはありません。治る=元通りの構造になる、という意味で考えるならば、手術をせずに治ることはありません。しかし、患者さんの生活状況によっては、腱板断裂をしていてもそれほどの不便を感じずに生活できる場合があります。 

腱板断裂はありふれた疾患で、高齢になるほど断裂する率が高くなります。80歳代では2人に1人が腱板断裂をしているというデータもあります。これらの人が全員手術を受けるわけでは、もちろんありません。


図のように、腱板は腕の付け根を覆うようについています。腱板の一部がはがれても、別の場所がついていればある程度の機能は維持されます。腱板がはがれた直後は痛みが生じますが、その痛みも保存療法により軽快するケースがあります。特にそれほど肩を多く使わない生活を送っている方の場合は、症状が悪化せずに経過することも少なくありません。

そのような場合には腱板が断裂していても、痛みもなく機能も問題ない、つまり「治った」と考えてよい場合もあるのです。ただし、断裂した部分が支えていただけの負担が周囲にかかった状態で過ごしていくことになるため、断裂が拡大するリスクがあることを理解しておく必要があります。
 

腱板断裂の手術は何歳まで受けることができますか?

腱板断裂の手術は体への負担はそれほど大きいものではないため、90歳代などご高齢の方にも行われる場合があります。実質年齢制限はないものと考えて良いでしょう。現代では活動的に生活する方が多く、積極的な治療を希望するケースが増えています。

心臓や脳の治療後などで、血液をサラサラにする薬を飲んでいる場合、状況により対応が検討されます。関節鏡で行う腱板をつなぐ手術では、短時間で出血も少ないため、薬を飲んだまま手術を行うことも多くなります。
手術が長くなることが予想される場合、上方関節包再建術やリバース型人工肩関節置換術を行う場合などは、個人の病状や施設の方針によって対応が異なってきます。

また、全身麻酔を行うことが困難と考えられるほどの持病を持っている場合は、保存治療が優先されます。