投球障害肩(とうきゅうしょうがいかた)~主に思春期以降~このページを印刷する - 投球障害肩(とうきゅうしょうがいかた)~主に思春期以降~


疾患に関するQ & A

・投球障害肩とは何ですか?
・投球障害肩はどれくらいの人が、かかる病気なのでしょうか?
・投球障害肩の原因は何ですか?
・投球障害肩はどんな症状がでますか?
・投球障害肩はどうやって診断するのですか?
 

治療、手術に関するQ & A

・投球障害肩の治療はどのようなものがありますか?
・投球障害肩の手術はどのような方法でやるのですか?

投球障害肩の手術に関する麻酔、入院期間、リハビリ、痛み、費用について
肩関節の代表的な手術である腱板断裂手術の説明ページをご覧ください。
腱板断裂の手術はどのような麻酔で行うのでしょうか?
 

投球障害肩とは何ですか?

投球障害肩とは、ボールを投げる、またはそれに似た動きを繰り返すことが原因で起こる、肩の痛みや機能障害の総称です。原因や程度はさまざまで、軽いものでは適切なコンディショニングを行うことでプレーの続行が可能ですが、悪化するとスポーツを続けるのが難しくなり日常生活に支障を来すことさえあります。

野球で投げすぎて肩を痛めた、というのはよく聞く話ですね。野球に限らず、ソフトボールやハンドボール、水泳など腕を上げて行うスポーツでは、肩に負担がかかり痛みなどの症状を起こすことがあります。脱臼など明らかなけがを除いた、繰り返しの動作が原因で起こる(オーバーユース)肩の障害を、投球障害肩と呼びます。

野球肩、スポーツ障害肩などと呼ばれることもあります。
 

投球障害肩はどれくらいの人が、かかる病気なのでしょうか?

投球により肩に障害を起こす頻度は非常に高く、少年のピッチャーを対象とした調査では32%が肩の痛みを経験し、5%が重症になったなどのデータがあります。年齢と共に発症する頻度は高くなると考えられますが、正確な数値は不明です。肘の障害を同時に発症することが多く、この研究では26%が肘の痛みを自覚していました。
Med Sci Sports Exerc. 2001;33:1803.
Am J Sports Med. 2011;39(2):253. Epub 2010 Nov 23.

 

投球障害肩の原因は何ですか?

投球障害肩は、投球動作を繰り返す中で肩関節にかかる負担に耐えきれなくなった時に発症します。肩関節にかかる負担は単純な投球数が多すぎる場合もありますが、投球フォームやコンディショニングに問題があるケースが少なくありません。負担をかけ続けると、肩関節を構成する関節唇や腱板に損傷が及びます。


投球動作はわずかな時間で急激な加速、減速を行う動作です。下半身や体幹で生み出された強大なエネルギーを腕へ伝えるため、肩・肘には大きな負担がかかります。中でも肩に大きな負担がかかりやすいのは、急な加速を始めるために肩を強く捻る段階、そして急な減速をする段階です。

この写真は、ピッチャーが足を踏み出し前に移動するエネルギーを体の回転に変換し、そのエネルギーを腕の振り出しにつなげるために胸を強く張り、まさに腕を振り下ろそうとしている瞬間です(コッキング期~加速期と呼びます)。肩は強く捻られ、急激な加速を始めるための準備が整った段階です。速い球を投げるためには、写真のように強く弓をはったような姿勢をとることが欠かせません。

しかし、この時点で肩の関節の中には強い圧がかかり、腱板や関節唇は骨と骨の間に挟まれる(インターナルインピンジメントといいます)状態になります。投球動作を繰り返し肩のバランスが崩れる(前方の関節包が弛緩し、後方の関節包が硬くなる)と、余計にインピンジメントが発生しやすくなります。

また、体の開きが早い(トップをしっかり作る前に体が開いてしまう)、肘が下がっているなどフォームの乱れがあると、肩の障害につながる可能性がより高くなってしまいます。

急激な加速をしたあとは、急激な減速をしなくてはなりません。腕は遠心性に牽引され、肩の後方の筋群には負担がかかります。強いエネルギーを体全体で吸収しなくてはなりませんが、踏み出した足の股関節(写真では左股関節)のコンディションが良くない場合、肩周囲の筋肉が硬い場合などには、肩の関節にかかる負担が大きくなってしまいます。

肩の関節内には関節窩(受け皿)を覆う組織(関節唇)がついており、上方には上腕二頭筋長頭という筋肉の腱が付着しています。繰り返しの牽引により腱の付着部が剥がれてしまう場合があります。これを、SLAP損傷と呼びます。


投球障害肩はどんな症状がでますか?

投球障害肩の症状は、初期は投球時の違和感、痛みが出現します。違和感がある程度では投球は可能ですが、痛みが強くなると本来のパフォーマンスを発揮できなくなります。症状が進行すると日常生活でも痛みや機能障害を自覚するようになります。

投球障害肩の痛み、違和感は腕を強く加速する時に発生することが多く、初期の段階では投球の強さを調節したり、痛みが出づらいような投げ方をすることでなんとかプレーを続けることが可能なことが少なくありません。それだけに、チーム状況やチームの方針などからしっかりと治療に臨むことができず、症状が進行してしまうことがあります。

本来と違うフォームで投げ続けていると、肘や股関節、腰などに負担をかけて新たな障害の原因となってしまう可能性があります。そうなってから肩の治療を受けて改善したとしても、その後本来のフォームを取り戻すことができずに思うようなプレーに戻らない、というケースがあります。

早期の段階で治療を開始することが非常に重要です。
 

投球障害肩はどうやって診断するのですか?

投球障害肩は、投球動作のどのタイミングで痛みがでるのか、投球フォームに問題がないかなど実際のスポーツ動作の中から診断していく必要があります。診察では肩関節の可動域や筋力、不安定性から肩の機能を総合的に評価していきます。MRIによる画像所見は、関節唇や腱板損傷の重症度を診断するのに役立ちます。

投球障害と一言にいっても、痛みを出している直接の原因はさまざまであり、単一の原因ではないと考えられることがほとんどです。結果として肩の痛みが発症したとしても根本的な原因が肩以外に隠れていることも少なくないため、股関節や脊椎の可動域など全身の状態を確認していきます。
 

投球障害肩の治療はどのようなものがありますか?

投球障害肩の治療は、肩の機能訓練やコンディショニングを中心とした保存治療です。日常生活でも痛みがでるほど症状が強い場合は、一時的な投球制限が必要となります。手術が適応となるケースはごくまれです。

投球障害肩の原因は、投球フォームや全身的なコンディショニング、肩の機能低下に起因しており結果として痛みを出している要因は一つではありません。MRIなどの画像検査では部分的な損傷などが描出されますが、あくまで結果としての損傷であるため、そこだけを治療しても良い結果にはなりません。根本的な原因にアプローチし、解決策を見出していく必要があります。

障害が早い段階であれば、保存治療で大多数が改善し、プレーに復帰することができます。どうしても長期間プレーに復帰できない場合、関節唇損傷によると思われるひっかかりが強い場合、腱板損傷の程度が強い場合などごく限られた場合にのみ手術が行われます。
 

投球障害肩の手術はどのような方法でやるのですか?

投球障害肩の手術は、肩周囲の筋肉などへの影響を最小限にするため、関節鏡を使用して行われます。損傷があればその部位(関節唇、腱板損傷)の修復、および機能を改善するための処置が、病状により選択されます。

投球障害肩の手術は、病状により処置が異なります。関節唇損傷、腱板損傷の程度が強ければスーチャーアンカーを使用した修復術が行われます。ひっかかりの原因になるような損傷や遊離体があれば、摘出されます。関節内、関節外のこすれやひっかかりを少なくするために動作部位をきれいにするクリーニング処置が行われます。

前方弛緩性がある場合には、関節包を縫縮する処置を行うことがあります。逆に、後方の硬さをとるために関節包を切離し肩全体のバランスがとれるように処置を行います。