肩関節脱臼(かたかんせつだっきゅう)このページを印刷する - 肩関節脱臼(かたかんせつだっきゅう)


疾患に関するQ & A

・肩関節脱臼とは何ですか?
・肩関節脱臼はどれくらいの人が、かかる病気なのでしょうか?
・肩関節脱臼の原因は何ですか?
・肩関節脱臼はどんな症状がでますか?
・肩関節脱臼はどうやって診断するのですか?
 

治療に関するQ & A

・肩関節脱臼の治療はどのようなものがありますか?
・肩関節脱臼は手術をしないでも治りますか?
・肩関節脱臼の治療をせずに放置した場合、どうなりますか?
 

手術に関するQ & A

肩関節脱臼に対しては、反復性肩関節脱臼に対する手術に準じた方法が行われます。
→「反復性肩関節脱臼」の手術に関するQ&Aへ  
 

肩関節脱臼とは何ですか?

上腕骨(腕の骨)と肩甲骨からなる肩関節が、外れてしまうことです。スポーツや転倒など、大きな力がかかった時に起こるけがです。脱臼に伴って骨折してしまうことや、一度外れてしまうとそれ以降外れやすくなることがある(反復性肩関節脱臼)ため、注意が必要なけがの一つです。



肩関節は関節の袋(関節包)に覆われ、一部は強い靱帯となっており、外れないように保持されています。しかし肩は人の体の中では最も広範囲の動きを求められる関節であるため、骨の作りが浅くなっています。

そのため肩関節は、最も脱臼しやすい関節です。すべての主要な関節脱臼の50%は肩関節脱臼であるというデータがあります。脱臼する時に靱帯や腱に引っ張られたり、骨同士がこすれて骨折を起こすことがあります。また、靱帯や骨の損傷があると脱臼しやすくなり、いわゆる「脱臼ぐせ」がつく原因となります。そのため、適切な診断と初期対応が重要となります。
 

肩関節脱臼はどれくらいの人が、かかる病気なのでしょうか?

肩関節は脱臼しやすい関節であり、人の体の主要な関節脱臼の約半数は肩関節脱臼です。アメリカのデータでは、平均すると10万人あたり1年に23.9人の方が肩関節の脱臼を起こしているという報告があります。
J Bone Joint Surg Am. 2010; 92(3): 542.
単純計算で、日本全国では1年間に30,000人近くの方が肩関節脱臼を起こしていると言うことになります。


若い男性と高齢女性に多く、年齢で見た時の発症頻度は10-29歳(10万人あたり1年に約45人)と、80-89歳(10万人あたり1年に約30人)の2峰性にピークがあります。

肩甲骨に対して、上腕骨が前方に外れてしまうことを前方脱臼、後ろに外れてしまうことを後方脱臼、下方に外れることを下方脱臼と呼びます。前方脱臼が圧倒的に多く、全体の95-97%は前方脱臼です。後方脱臼が2-4%、下方脱臼はまれで0.5%と報告されています。 J Emerg Med. 1995; 13(1): 37.
 

肩関節脱臼の原因は何ですか?

肩関節脱臼は外転、外旋した状態(挙手の姿勢)で後ろへの力がかかる(バンザイした状態で手を後ろに引っ張られる、バスケットボールのショットをブロックする、ヘッドスライディングで無理な力がかかるなど)ことで発症することが一般的です。

肩の関節の受け皿である肩甲骨は、上から見た時に少し前を向いています。上腕骨はそれに対応して少し後方へねじれた構造をしています。脇を広げて手のひらを前に向ける状態、つまり挙手した肢位になると、上腕骨は逆向きになり前へねじれた状態となるため、前にずれやすい状態になります。その状態で手や肘を後ろに弾かれると、肩がさらに前にずれる力となるため、強い力がかかると脱臼してしまうのです。

その他、手を上げていなくても後方からの強い力で外れてしまう場合や、元々関節が柔らかい肩では、ちょっとした動きやくしゃみなどささいなきっかけで外れてしまうこともあります。てんかんをお持ちの方は、発作を起こした時に肩関節脱臼が発症しやすいことが知られています。
 

肩関節脱臼はどんな症状がでますか?

肩関節が脱臼すると強い痛みを感じ、わずかな動きもできなくなります。多くの場合患者さんは肘のあたりを支えて肩が動かないようにしています。外から見ると肩の丸みが失われ、肩甲骨の外側(肩峰)の出っ張りが目立つようになります。


関節が脱臼する時には、骨がずれるだけではなく、骨と骨をつなぐ靱帯が伸ばされるか損傷するなど、周囲組織には強いダメージがかかります。そのため脱臼した関節の周囲に強い痛みを感じます。

肩関節の前方には神経が走っており、脱臼した時に神経が圧迫され障害を受けることがあります。腋窩神経という神経が障害されると、肩の筋力(三角筋)が低下したり、感覚が鈍くなる原因となります。手につながる神経も近くを通るため、手の指にしびれがないか、動きに問題がないか、などが重要なチェックポイントになります。
 

肩関節脱臼はどうやって診断するのですか?

スポーツでの接触や転倒など強い力がかかり、肩が動かせないほどの痛みを感じている場合に脱臼の可能性を考え、レントゲン検査を行います。レントゲンで骨の位置を把握し、骨折が疑われる場合にCT検査を行い診断します。

正常な肩関節では、レントゲン検査で肩甲骨と上腕骨はしっかりと向き合っています。肩甲骨の受け皿の上(横)に、上腕骨のボールが乗っかっているように見えます。

肩関節脱臼ではこの位置関係が崩れるため、レントゲン検査で一目瞭然となる場合が多いのです。特に前方脱臼では下の図の通り、はっきりと骨のずれが描写されます。


脱臼に骨折を伴う場合も多く、レントゲン検査での評価が重要です。


左の図のようにはっきりした骨折が起きることもありますが、右の図のようにわずかな骨折があることも少なくありません。そのような場合はCT検査による評価が正確です。

レントゲンで診断がつくことの多い肩関節脱臼ですが、後方脱臼には注意が必要です。
上腕骨が後方にずれる後方脱臼では、レントゲン正面像で骨頭があまりずれないため、慣れていないと一目で分かるほどの変化は写りません。珍しいけがなので見たことのない医師も多いと思われ、実際最大50%の患者さんでレントゲン検査での診断が難しかった(できなかった)という報告もあります。
Radiology. 2002; 224(2): 485.

さらに珍しい下方脱臼では、次の通り特徴的な肢位を示します。


 

肩関節脱臼の治療はどのようなものがありますか?

肩関節脱臼を戻すには様々な方法が考案されており、担当医の好みや判断で選択されます。受傷して早い時期であれば、麻酔なしで問題なく戻せることが多いのですが、うまく力を抜くことができない場合や戻りづらい場合には局所麻酔、または全身麻酔(鎮静)が行われます。

脱臼を戻すには、腕を挙上して引っ張る方法、うつ伏せに寝て重りを腕にぶら下げる方法などがあります。


他にも肩を外にひねる方法や、肩甲骨を徒手的に操作する方法など数多くの方法が考案されています。無理な力をかけることは骨折や周囲組織の損傷の恐れがあるため、注意しながら治療が行われます。

痛みが強いと患者さん自身が力を入れてしまい、肩が戻りづらくなる原因となるため鎮痛薬や鎮静薬を使用することがあります。局所麻酔薬を使用した関節内注射や神経ブロック、または全身麻酔に使用する薬剤を使って鎮静する方法などがあります。

脱臼を戻したあとは、固定を行い損傷された組織が修復されるのを待ちます。20歳未満の患者さんでは、脱臼した方の50-90%が反復性脱臼に移行するため、慎重な経過観察が必要です。一般的には3週間程度の固定処置が行われます。固定の仕方にも複数方法が提唱されていますが、はっきりと優れた方法は示されていません。
 

肩関節脱臼は手術をしないでも治りますか?

肩関節脱臼は受傷して早い時期であれば、ほぼ全ての場合手術をせずに戻すことが可能です。しかし中には関節周囲の腱や靱帯、骨折などが戻ることを阻害してしまったり、受傷して時間が経つと癒着が原因となったりして、戻せないことがあります。この場合は、手術が必要となります。

救急科の医師による肩関節脱臼の治療成功率は、90-95%という報告があります。
Am J Emerg Med. 1991; 9(2): 180.
日本の場合は救急科、もしくは整形外科の医師により治療されるケースが多いと思われます。複数の医師が治療に関わることで、治療の成功率はより高いものになると考えられます。

それでも、どうしても脱臼を戻すことができないことがあります。骨折を伴う場合と、受傷から時間が経過した場合(2-3週間など)が代表的です。脱臼した状態では機能の回復を望むことはできないため、手術を行い脱臼を戻す治療が行われます。骨折など他の損傷を合併している場合、合わせて修復されることがあります。

また、20歳未満など若い方では脱臼した後に反復性脱臼になる率が非常に高いことから、激しいスポーツをする方などリスクが高い人は、一回でも脱臼したら整復がうまくいっても再脱臼を防ぐための手術が必要だという意見があります。一方でまずは固定して様子を見るべきだという意見もあり、現時点では一致した見解は確立されていません。
 

肩関節脱臼の治療をせずに放置した場合、どうなりますか?

若い方や現役世代の方は、脱臼した状態では生活がままならなくなるため、放置するというのは現実的ではありません。仮に放置すると、骨には無理な力がかかり続けることになるため、骨が変形し元通りに治すことは困難になります。

ご高齢の方で室内を中心に活動量の少ない生活を行っている方や、施設で生活している方、寝たきりの方などでは、まれに肩が脱臼した状態のままでいる場合もあります。痛みが軽度であればそのまま経過観察しますが、症状が強い場合には手術治療を計画することになります。