上腕骨近位端骨折(じょうわんこつきんいたんこっせつ)このページを印刷する - 上腕骨近位端骨折(じょうわんこつきんいたんこっせつ)


疾患に関するQ & A

・上腕骨近位端骨折とは何ですか?
・上腕骨近位端骨折はどれくらいの人が、かかる病気なのでしょうか?
・上腕骨近位端骨折の原因は何ですか?
・上腕骨近位端骨折はどんな症状がでますか?
・上腕骨近位端骨折はどうやって診断するのですか?
 

治療,、手術に関するQ & A

・上腕骨近位端骨折の治療はどのようなものがありますか?
・上腕骨近位端骨折は手術をしないでも治りますか?
・上腕骨近位端骨折の治療をせずに放置した場合、どうなりますか?
・上腕骨近位端骨折の手術はどのような方法でやるのですか?

  上腕骨近位端骨折の手術に関する麻酔、入院期間、リハビリ、痛み、費用について 肩関節の代表的な手術である腱板断裂手術の説明ページをご覧ください。
→腱板断裂手術へ
 

上腕骨近位端骨折とは何ですか?

上腕骨は二の腕部分の骨で、近位端とは付け根に近い部分という意味です。腕の付け根で折れてしまう骨折のことを上腕骨近位端骨折といいます。腕の付け根には多くの筋肉がついているため特徴的な骨折形態となり、筋肉の働きを考慮した治療が必要となる骨折です。

上腕骨は腕にある骨の中では最も大きな骨です。上腕骨の近位端には腱板や関節包、靱帯が付着し周囲の骨と連結されています。


腱板の付着部には大結節と小結節と呼ばれる部位があります。上腕骨近位端骨折を起こすと、骨が破綻するとともに腱板に引っ張られるため、大結節、小結節が独立した骨片となりやすくなります。

骨折の重症度は粉砕の程度によって判定され、大結節・小結節の骨片があり離れていると、より重症であると判断されます。程度が軽いものから1パート、2,3と重症度が増し4パートでは最も病状が重くなり、治療が難しくなっていきます。



 

上腕骨近位端骨折はどれくらいの人が、かかる病気なのでしょうか?

上腕骨近位端は、加齢とともに骨が弱くなりやすい(骨密度が低下する)場所であるため、高齢の方では四肢のうち3番目に多い骨折です(1位:股関節、2位:手首の骨折)。すべての骨折の4-5%を占める頻度の高い骨折で、70%以上は60歳以上の年齢で発生し、73-78歳で最も発生率が高くなります。
Acta Orthop Scand. 2001; 72(4): 365.
Clin Orthop Relat Res. 2006; 442: 87.


高齢の方で骨粗しょう症の方に発生しやすい骨折であるため、男性よりも女性で3-4倍多いというデータがあります。
Am J Epidemiol. 2004; 160(4): 360.
 

上腕骨近位端骨折の原因は何ですか?

上腕骨近位端骨折の8-9割は、ご高齢の方が転倒した時に発生します。直接腕の付け根を打撲することに加え、自分で肩を守ろうと強い力を入れることで粉砕した形の骨折となりやすくなります。若い方では激しいスポーツや交通事故など非常に強い力がかかった時、肩関節が脱臼した時に発生する可能性があります。

上腕骨近位端骨折はどんな症状がでますか?

上腕骨近位端骨折は、その他の骨折と同じく、骨折した場所の強い痛みを感じます。深い場所の骨折であるため腫れがはっきりしない場合もありますが、出血により肩全体の腫れがはっきり分かることもあります。周囲には腋窩神経と肩甲上神経という神経があり、骨折により障害されると肩の筋力や感覚が低下することがあります。

上腕骨は表層の三角筋や大胸筋といった厚い筋肉の奥にあるため、骨の変形がはっきりと分からない場合が少なくありません。見た目にそれほど大きな変化がなくても、転倒後などに肩を動かせないほど痛がる場合には、骨折の可能性を考える必要があります。

肩の周囲には様々な神経、血管があり骨折に伴い障害される可能性があります。中でも障害される頻度が高いのは腋窩神経、肩甲上神経という神経です。腋窩神経が障害されると肩の外側の感覚が低下し、肩を上げようとする筋力が低下します。肩甲上神経が障害されると肩を外側にねじる筋力が低下します。神経の症状は一過性であることが多いのですが、残存すると障害の原因となるため注意が必要です。
 

上腕骨近位端骨折はどうやって診断するのですか?

上腕骨近位端骨折は、レントゲン検査を行うことで診断することができます。様々な方向から撮影することで診断精度が高くなります。診断がはっきりしない場合や、骨折の形を詳細に調べたい場合などに、CT検査が行われます。腱板の損傷を評価するために超音波やMRI検査を行うこともあります。

上腕骨近位端骨折は、程度によって治療法が異なるため、重症度の評価が重要となります。骨折の有無だけではなく、細かい粉砕の程度を調べるために、CT検査がしばしば実施されます。

上腕骨近位端骨折の患者さんでは、20-50%に腱板断裂を伴うというデータがあります。 Injury. 2002; 33(9):781. レントゲンやCT検査では腱板の状態は評価できないため、超音波やMRI検査を行うことがあります。
 

上腕骨近位端骨折の治療はどのようなものがありますか?

上腕骨近位端骨折は、ギプスやシーネ、包帯、三角巾やスリングなどによる固定を行う保存治療、または手術で治療されます。骨折の程度が軽い場合や、ご高齢の方で介護を必要とする方などでは保存治療が優先され、骨折の程度が重くアクティブな生活を送る方には、手術治療が優先されます。

保存治療の場合、骨折の程度が軽い場合は受傷後1-2週から、程度が重い場合は4週程度から腕を動かす運動を徐々に始めます。

骨のつきを確認しながら、リハビリの段階を上げていきます。糖尿病などの持病をお持ちの場合や、無理なリハビリを行った場合、偽関節(骨がつかない)の原因となる可能性がありますので、慎重な経過観察が必要です。

手術治療の場合、骨折を元の位置に戻して金属で固定するか、骨頭壊死が予想される場合には人工骨頭挿入術や人工関節置換術(リバース型人工肩関節置換術)の実施が検討されます。
上腕骨近位端骨折の手術はどのような方法でやるのですか?
 

上腕骨近位端骨折は手術をしないでも治りますか?

上腕骨近位端は血流が豊富な場所であるため、手術で固定しなくても骨の癒合が期待しやすい部位です。ただし骨が変形して癒合すると、痛みや機能障害の原因となるため、変形を起こしやすい粉砕骨折や、アクティブな生活を送る方では手術治療を勧められることが多くなります。

上腕骨近位端は腱板や関節包など、様々な組織が付着する場所であるため、骨の周囲からも血管が入り血流が豊富です。上腕骨近位端骨折の多くは、三角巾などで安静にするだけで骨がつくことが多いため、手術をしないでも治りやすい場所といえます。特に普段それほど腕を積極的に使わない方、介護されながら生活を送っているような方では手術を必要としないことが多いのです。

ただし上腕骨近位端につく組織は、関節の安定性や筋力といった機能に深く関係しているため、変形を残して骨がつくと、肩の慢性的な痛みや可動域制限の原因となります。また、粉砕が強い骨折では、骨頭壊死(こっとうえし)といって頭の部分が壊死して崩れてしまうことがあります。このようなケースでは、手術をせずに治癒することは難しくなります。
 

上腕骨近位端骨折の治療をせずに放置した場合、どうなりますか?

上腕骨近位端骨折の治療をせずに無理に動かしていると、骨がつかずに偽関節(ぎかんせつ)になる可能性があります。大きな変形や偽関節、骨頭壊死(こっとうえし、上腕骨の頭の部分が崩れてしまう)を放置すると、変形性関節症などの原因となり、慢性的な痛みや機能不全が残存することになります。

保存治療が可能な骨折であっても、適切な固定や経過観察を行わずに放置すると、思わぬトラブルの原因となります。また手術が必要な骨折を放置すると、痛みや機能障害の原因となり、後から手術と思っても、その時には初め以上に大がかりな手術をせざるをえないといった事態になる可能性があります。病院を受診し、適切な治療を受けることをお勧めします。
 

上腕骨近位端骨折の手術はどのような方法でやるのですか?

上腕骨近位端骨折の手術は、骨をできるだけ元通りの形に戻し金属のネジやプレートなどで固定します。元通りの形に戻すのが難しい場合や、粉砕が強く骨頭壊死が予想される場合には人工の骨頭や関節に置換する手術が行われます。

上腕骨近位端骨折を手術で治療する場合、骨折による変形をできるだけ元通りに戻し、しっかりと固定することに主眼をおいて手術が行われます。体の外から骨をおしたりひっぱるだけで骨が元通りの位置になる場合には、そのまま金属をあてて固定します。簡単には元通りの形にならない状況であれば、骨折部を展開して直接いい形になるようにします。骨の固定には金属のネジやプレート、髄内釘(ずいないてい)などとよばれる器具が使用されます。


骨粗しょう症の患者さんでは上腕骨近位端は骨が非常にもろく、ネジをいれても十分に骨が固定できないことがあります。また、4パート骨折と呼ばれる粉砕の強い骨折では、骨の頭に行く血流が阻害され、壊死してしまうことがあります。そのような場合には、人工骨頭挿入術や、人工関節置換術(リバース型人工肩関節置換術)が行われます